ズズと灰の街

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重い扉を閉めるように、ゆっくりと本を閉じていきます。 すると、ミガルドの姿がゆらいだかと思うと、半透明になって折り畳まれていきます。 ズズが完全に本を閉じると、ミガルドの街は風のように消えてしまい、あとには青空が残っているだけでした。 「封印完了よ。本の中に仕舞ってある間は、魔法の侵食を防げるわ」 エスメラルダの言葉を聞きながら、ズズは本の背表紙をそっと撫でました。 「バルバロ翁は魔法の被害者だよ。あの人は魔の力に、仮初の希望を見てしまったに過ぎない」 「そんな人ばっかりよ」 ズズが丁寧に丁寧に本を本棚に収めるのを、エスメラルダは目で追いかけました。 「10年前に国内各地で現れた白衣(しろご)の魔女。各地で魔法による街の変異、事件が発生し、国内が完全に分断された“一夜革命”事変。国中、おかしくなる人だらけに決まってるじゃない」 「魔法で狂ったものは、魔法でケジメを付けないと」 ズズは、本棚の両扉を閉めて、重たい錠前をがちり、とかけ直しました。 「だから街を一つ一つ記録して、本に封印して、国として繋ぎ直すって?ねえ、ズズ。いつも思うけど、アンタ本当にそんなことできると思う?」 ズズはエスメラルダの言葉には答えませんでした。少しだけ重たくなった本棚を背負い、ゆっくりと歩き出しました。 「次はどんな街だろう。楽しみだね、エスメラルダ」 「知らないわよ」 エスメラルダは自分の定位置である本棚の上に登ると、さっさと目を閉じてしまいました。
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