ズズと灰の街

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もし、この場に初めてズズの姿を見る人がいたら、ぎょっとしたことでしょう。 ズズは黒一色で染めた服を、肌が少しも出ないように着込んでいました。 頭にはつばの広くて三角形の帽子が乗っていて、ズズが歩くたびに先端に縫い付けられた鈴が小さな音を立てています。 もちろん、それだけなら誰も驚きません。 ズズは、背中にとても大きな本棚を背負っていたのです。高さはズズの背丈の倍、厚さはズズの体の4倍、幅だってズズが目一杯両手を広げたよりもあるでしょう。 木と黒い金具で作られた本棚を後ろから見ると、上から下まで一直線に線が走っていて、両開きの扉が誂えてあります。 前から見ると、本棚の両脇から木製の腕が伸びています。腕はズズの体の前で文机(ふづくえ)を抱えていて、その上には書きかけの本、インクがなみなみと入れられた壺、透き通った結晶で作られたペンがありました。 ズズは見たり聞いたりしたことを本に書き込みながら、旅をしているのでした。 まるで机と合体した巨大な本棚から、足が生えて歩いているような姿が、ズズの旅の姿だったのです。 「知らないわよ。ねえ、アタシは日の当たらない街は得意じゃないんだよ。毛が湿気(しけっ)て体が重く感じて、いやンなっちゃう」 本棚の上から声がしました。
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