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「エスメラルダ、」
「分かってるわよ、分かってるわよ。ただね、いけ好かない街ってのはあるもんよ、誰でも、アタシでも、アンタでも」
エスメラルダは黒い猫でした。他の猫よりも栄養の行き渡った体を本棚の屋根に横たわらせて、近寄ってくる雲を追い払うように前足を振ります。
「そう?私は楽しみかな」
「肉の干したのがまだ3日分はあったはずよ。あの街は後に回して次に行こうじゃない」
「干し肉はエスメラルダが食べちゃったよ」
「いつ」
「今朝。3日分」
エスメラルダは静かに体を起こして、磨き上げられてつやつやの本棚を前足で叩きました。
「何してるのよ!早く宿なり酒屋なりを探しなさいよ。飯にありつけないでネズミを探しに屋根裏を走らせたりなんかしたら、承知しないわよ!」
俄に盛り上がりだしたエスメラルダの声を聞きながら、ズズは再びえっちらおっちらとミガルドへ向けて歩き始めました。
❖
ミガルドの中に入ると、どうしてこの街の空がどんよりとして見えたのかが分かりました。
「灰だ」
爪の先よりも小さな灰が次から次へ、空を舞っていたのです。
ズズは真っ黒な手袋を外して灰を受け止めようとしました。揺れながら落ちてくる灰のかけらは、待ち受けていたズズの手に乗ると、
「あれ」
再び火にくべられたように、小さな光を放って消えてしまいました。
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