ズズと灰の街

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灰は、周りに建っているお店の屋根や、道端に停められている荷馬車の幌や、「ようこそミガルドへ」と書かれた大きな看板には、まるで雪のように積もっているのに、ズズの手に当たった灰は、次々と光になって消えてしまいます。 その様子を不思議そうに眺めていたズズの背中に、おおい、と呼びかける声がしました。 「旅の人?」 振り返ると、「統星(すばる)亭」と書かれた建物の入り口から、小さな女の子が手を振っていました。 「分かりますか」 「その灰は触ったら良くないんだよ。こっち、入っておいでよ」 女の子に誘われるままに中に入ろうとしたとき、ズズは思い切り腰をかがめました。 そうしないと、背負っている本棚を派手に扉にぶつけてしまうと、いくつもの街を訪れるうちに覚えていったのです。 「エマ、どうなすったね。お客様ですかね」 ズズが店に入ると、奥から老爺(ろうや)が出てきました。 「旅人さんなの、バルバロ。外でぼーっと空を見上げてたから、中に入れてあげたの」 「そりゃあ、良いことをなすったな」 「お邪魔しています。行くあてが無くどうしようか決めかねていたところ、ご令孫(れいそん)のご厚情に甘えて上がり込んでしまいました」 ズズは帽子を脱いで、バルバロと呼ばれた老爺にその国で最も正しいと言われる礼をしました。
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