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「私は記し手の端くれでズズと申します。どうか、一夜の間雨露を凌げる屋根の下をお貸しください。代わりに小夜の戯れに、ささやかな異邦の話を差し上げます」
ややあって、おやまあ、とバルバロは呟きました。
「ははあ、これは珍しい。記し手様とは、あたくしは見るのは初めてですだよ」
バルバロはズズと全く同じ礼を2回繰り返しました。これは、相手への最大の尊敬ともてなしを表したいときに使われる挨拶でした。
二人の間に立っていたエマは、バルバロの真似をしましたが、手足を勢い良く振っただけで、踊っているように見えました。
「こんな爺がやっておる、しがない飯屋ですが、どうぞ泊まってやってください」
「やった!」
ズズが礼を言おうとする前に、エマが小さな体を飛び跳ねさせて、ズズの周りを走り回りました。
「記し手さんがうちの店に来るの初めて!バルバロ、今日は沢山ごちそう作ってよ」
「そうですな、記し手様の話をあたくしらだけで聞いてしまうのはもったいないですだよ」
わあ、と顔中に嬉しさをほころばせて、エマは店の入口に引っ掛けてあった外套を被り、傘を取りました。
「私、みんなに知らせてくるね!」
外へ出ていこうとしたとき、エマが空咳を二つ、三つほどしていたのに、ズズは気付きました。
「バルバロ翁、エマ嬢はお体でも悪くいらっしゃるのですか」
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