ズズと灰の街

8/15
前へ
/15ページ
次へ
ズズが話すのは、ミガルドに住んでいる人達が知らない世界の話でした。手招きして人を森の奥深くまで連れて行ってしまう獣、思い出を頭から取り出せる鏡があるせいで、思い出まみれになって潰れてしまった街、食べようとしたら怒って人を食べようとする料理(この話を聞いていたバルバロは、「飯の風上にも置けんですじゃ」と鼻を鳴らしていました。)、などなど、次々と話を披露しました。 ズズが一つの話を語り終わるたびに、周りから息を漏らす音がして、店の中いっぱいに拍手の音が響き、記し手の冒険を称えて乾杯を叫ぶ声が上がりました。 エマもよく働いていました。 バルバロが作った料理をテーブルに乗せて、空になった皿やカップを片付けては洗い、酔って騒ぐ人を見つけては「静かに!」と叱り付けて、ズズの手元にあるお茶が冷めれば熱いものと入れ替えました。 文机に広げた本の最後の(ページ)まで読み終わると、ズズはゆっくりとそれを閉じて、壊れ物を扱うように丁寧に本棚に戻しました。 そして、別の本を取り出してくると、エマが差し出してくれる熱いお茶を一口だけ口に含んで、再び鈴を鳴らしてから新しい話を始めるのでした。 次々と料理の皿が空になって、酒の瓶が空いていく間にも、ズズは本を開いて鈴の音を響かせては、自分が記した過去の記憶を紐解いて、語りかけることを繰り返しました。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加