ズズと灰の街

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そうして、どれだけ時間が流れたでしょう。ズズが20数冊目の本を閉じて、エマが70枚目の空になった大皿を片付けて、数え切れないほど乾杯が叫ばれた頃だったと思います。 「そろそろお開きになされ」 厨から顔を出したバルバロが、ひときわ大きな声を上げました。 「次から次へと話をねだるから、ほれ、記し手様がちいともあたくしの料理を召し上がっておらんですわ。それに、もう材料も酒も()うなったわ、店じまいですじゃ。お帰りなされ」 それからのバルバロの動きは素早いものでした。騒ぎ疲れて眠りこけている人を起こして、散らかり放題の店を片付けて、店の椅子やテーブルを組み合わせて、ズズのために簡単なベッドを作ってしまいました。 ズズはバルバロの動きを眺めながら本をしまい、文机に書きかけの本とインク壺、ペンを取り出しました。 エマは働きすぎて疲れたのでしょうか、手近な椅子に腰掛けるとあっという間に寝息を立て始めました。 人がいなくなって、すっかり薄暗くなった統星(すばる)亭の中で、ズズはバルバロが差し出してくれた毛布を肩にかけました。 「エマを許してやってくだされ。あれは、街の外から来られた方が珍しくて、張り切ってしまうのですじゃ」 「おかげで、多くの方に拙作を聞いていただきました。私はその方が嬉しいのです」 「ズズ様には随分仕事をさせてしもうた」 苦笑いするバルバロに、ズズは、いいえ、と返しました。
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