1/1
前へ
/5ページ
次へ

 息子を巡回教師に任せた私は自動運転の市内循環バスに乗り、日課にしている人口調整省管轄の中部ブロック第三十七工場を視察した。私の他にも二名の視察者がいたので、冷蔵庫の鶏卵のように整然と並ぶ人工子宮(ホーリー・カプセル)が問題なく稼働しているのを一緒に確認しながら、彼らと他愛のないおしゃべりに興じた。今でも誕生前の遺伝子改良を声高に主張する一部の人間が存在することが信じられない。彼らだって、それぞれの特性を持って、ここから生まれたからこそ多様な意識を持ちえたのだろうに。画一化された遺伝子が何をもたらすかが根本的にわかっていないのだ。退化……変化に富む特質がもたらす突然変異がなければ生命体としての新たな進化も望めない。しかし、そんな身勝手ともとれる彼らの思考ですら貴重な特性のサンプルに他ならない。  そう。進化を(うなが)すためには何でも利用しなければならないのだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加