ヒカリサスホウヘ

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ヒカリサスホウヘ

 ぷかぷかと浮かぶ。  私は一人、暗い水の中を漂う。  私が手をしっかりと繋いでいなかったばかりに、私は君と(はぐ)れてしまった。  暗闇の中、私は必死で手を伸ばし君の手を探したけれど、どんなに手を伸ばしても、君に触れることができない。  どうして……  今までずっと一緒にいたのに。これからもずっと一緒にいると思っていたのに。  並んでぷかぷかと浮いていた時は、ここは狭いと思っていた。だけど、私一人には広すぎる。  戻っておいでよ。また一緒に過ごそうよ。  一人は寂しい。  声を上げて泣きそうになった時、暗い水の中に一筋の光が差した。光の向こうから、呼ばれたような気がした。  早く、出ておいでと。  私と君に、いつも語り掛けてくれていた優しい声が、私のことを呼んでいる。私は、あの声の元へ行ってもいいだろうか。  行きたい。会いたい。  でも、君と離れるなんて、できるわけがない。だって、私と君は一心同体なのだから。  ねぇ、どこへ行ってしまったの? あの光の先へ、一緒に行こうよ?  私はもう一度手を伸ばして、君の手を探す。  今度は、君の手に触れた気がした。君の声が聞こえた気がした。  大丈夫。心配しないで。僕はいつだって君のそばにいるよと。  いつものように、私の手をしっかりと握り返してくれた。そんな気がした。  これで一緒に、光の向こう側へ行けるね。  喜ぶ私の手を放し、君は私の背中を力いっぱい押す。  私は一人、光の海流に乗った。  私は君に手を伸ばすけれど、君は笑顔で手を振った。  また君の声が聞こえた気がした。  僕は、神様に呼ばれたんだ。だから、君とは一緒に行けないと。  でも、大丈夫。僕はいつだって君のそばにいるからと。  光の海流は、私だけを乗せて流れていく。  どんなに手を伸ばしても、もう君の手を掴むことができない。  私の流した涙がいくつもの泡沫となり、暗い水中をぷかぷかと漂う。  君はそのうちの一つを両手で掬って、大切そうに胸に抱いた。  君の姿が離れていく。  そんな物を大切にするくらいなら、私と一緒に居ればいいのに。  力の限り叫ぼうとしたその時、私の周りがとても眩しく輝いた。  眩しくて眩しくて、目をギュッと瞑ったまま、私は両手を固く握り、大きな声で泣いた。  君が私のそばに居られないなら、私が君のそばに行くよ。  神様、お願い。私たちを引き離さないで。  私は大きな声で泣きながら、大粒の涙を流した。  涙は、スッと胸へ流れて消えていく。  私の小さなハートが涙でいっぱいになった時、初めての声を聞いた気がした。  仕方がないな。お前にチャンスをやろうと。  もう少しの間だけ、一緒にいるがいいと。  私のハートに溜まった涙は、キラキラとした塊となり暗い水中へと戻っていった。  私は泣くのをやめた。耳元であの優しい声がする。  泣き止んだのね。少し眠りなさい。次に目を覚ましたときには、笑顔を見せてね。  その声の温かさに包まれながら、私は眠りについた。  もう、ぷかぷかと浮かんではいなかった。
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