似てない姉妹

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似てない姉妹

フウカさんが歩いた後は、仄かに甘い花のような良い香りがする。 外から見たら立派な洋館だった。まるで海外の古い屋敷みたいな見た目の家。 だが、中はペルシャ絨毯が敷き詰めてあるわけでもなく、大きな窓があって豪華なベルベット素材の赤いカーテンが垂れているわけでもない。   日本の昔ながらの木造住宅だ。 そして床はしっかり磨き上げられてはいるものの、踏むと軋み、たわむ。どこからともなく白檀の細い香りが漂ってくる。 玄関を上がってリビングに続く長い廊下の突き当りに飾られているのも、ガラスケースのフランス人形――ではなく、赤い着物の日本人形の女の子だ。 ひとりは短髪のおかっぱで、もうひとりは腰までの長い黒髪。 随分古い物なのか、どちらの着物にも、袖の端や裾、帯にも焦げたような大きな染みがある。 はっきり言ってここだけ少しホラーを感じて視線を逸らした。 「姉さーん」   リビング、ではなく二部屋分の畳敷きの居間への障子を開けながら、フウカさんが呼びかける。 「あら、お客さん連れてきたの?あんたも好きねぇ」   まさに部屋のど真ん中。 姉さんと呼ばれた人は、畳の上で文字通り大の字になったまま、顔を更にぐっと後ろに倒して見上げるような形で、僕とフウカさんと交互に視線を移す。 清楚で上品な雰囲気のフウカさんとは対照的に、着古して首元も緩くなったグレーの上下のスウェット。 長い髪は畳の上にばさりと無造作に広がり、前髪は縛っていてちょんまげだ。パイナップルヘアーと言うんだっけ。 「あたしの瞑想時間になると連れてくるんだもんねぇ」 「またそんな。瞑想じゃなくて、姉さんのはただ怠けてるだけじゃない」 「違うわよー。私はここで、世界平和を願ってるのよ」 「何言ってるのよ、もう。姉さんはシオンって言います。お茶淹れて来るから、ここに座ってて」 部屋の隅に積まれていた紫色の座布団を縁側の手前にあるちゃぶ台に置いて、フウカさんは台所の暖簾をくぐってしまった。 リン――。 縁側では南部鉄の風鈴が繊細な音を奏でていた。 その向こうはさっきの虹色の庭が広がっている。 今度は顔を横に向け、座布団に正座して背中を丸める僕をじっと見つめたシオンさんは「なるほどねぇ」と僕が目を合わせないよう視線を外すより先に、天井に呟いた。 なるほどねぇとはなんだ。 初対面で、顔を見ただけで何もかもわかりました、みたいな態度は如何なものか。 眉間に力が入ったが、お茶を手にしたフウカさんの登場に、慌てて額を指でほぐした。
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