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「慣れない事はするもんじゃ無いわ」と障子の木枠を背もたれにして胡坐をかいたシオンさんがスイカにかぶりつく。
「姉さんなりの優しさ、なんです。ふふっ、遠慮しないで、どうぞ召し上がって」とフウカさんがスイカを差し出した。
「人が来るのは久しぶりですから」
フウカさんは種をひとつひとつ箸で取り除いてから食べる。
一方シオンさんは豪快にかぶりつき、威勢の良い音と共に種だけを更に吹き出す――と見せかけて、度々顔をしかめる瞬間があるのは種をかみ砕いてしまった時だろうか。
「して、時宗君」
肘に垂れたスイカの汁を拭きながらシオンさんが言う。
「私たち姉妹の事をどう思う?」
「変わってる……と思います。似てないって言うか……」
あぐらに肘を付いて前のめり姿勢のシオンさんとは目を合わせないまま、すぐ隣で無防備に寝る茶トラの背中を見たまま答えた。
「っていうか、どうして僕の名前――」
反射的に顔を上げた。
今度は目の前にフウカさんの顔があって、灰色の瞳で僕をじっと見つめている。
光の無い、塗りつぶしたような、無機質な瞳。
まるで作り物のような。
「怖いですか?変ですか?不気味ですか?どう思います?」
さっきまでののんびりとした口調から一転した、まくしたてるような言葉に、背筋をぞっと悪寒が走る。慌てて頭を横に振った。
「なーんて。ふふっ、意地悪しちゃいました、ごめんなさい。ここでこうして出会えた方に、悪い人はいませんから」
「君は臆病なだけだね。私たちが知ってるタイプの人間じゃない。いたずらに石を投げたり、踏みつけにしたりする類じゃない。だから、私は面倒な事をしてまでスイカを振舞ったのだから。あんなの、普段はフウカにやらせるのが私なのだよ」
「緊張なんてしなくて良いんですよ。ほら、ゆっくり息を吸って。心が落ち着きますから」
言われた通り、ゆっくり吸って、吐く。さっきまで遠くにか細い香りだった白檀が、今ははっきりと感じる。
どこか懐かしくて、もどかしくなるような香り。ふっと、眉間や肩から力が抜けるのが分かった。
「私たちは時宗君に会えてとても嬉しいですよ。そうだ、良かったら今からパウンドケーキを作るんですけれど、一緒にどうですか?あ、どうせなら一緒に作りましょう。楽しいですよ」
そうしましょう、と頬の横で両手を合わせるフウカさんを横目に、シオンさんは「あたしは食べる専門でよろしくぅ」と、再び畳に両手を広げて転がったのだった。
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