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ともだち
「堂々とすりゃ良いのよ。人見知りなら人見知りで良い。喋るのが苦手ならそれでも良い。その苦手をあんたが恥だと思わなきゃ良いの。無理して生きるほど損なことは無いわ」
「時宗さんは人の痛みがわかる人です。孤独を知る人は誰よりも優しくて、そして必ず世の中に必要な人です。それに気付けない人はいるものです。でもそれはずっと続くものじゃない。今いる場所は、時宗さんの世界の全てじゃないですから」
あの家を出る時、二人がかけてくれた言葉だ。
茶トラは縁側でだらけるシオンさんのお腹で脱力したまま。
フウカさんは庭で夕方の水やりをしながらそう言った。
「はーい、ペアは作れた?余ってる人は先生と組むから手上げてねー」
英語の先生がクラスに呼びかける。
教室内はそれぞれ席を立ち、仲の良いペアを作って盛り上がっていた。
僕はもちろん、余っている。
クラスの廊下側、一番後ろ。
このまま手なんて上げなくても、僕が余り物かどうかすらも、きっと誰も気付かないだろう。
もうそれで良いや、と思った。あとで指摘されたら適当に謝ってればいい。
ペアで教科書にある英会話の発表なんて、このドキ胸君には荷が重すぎる。
「おい、お前ひとりやろ。一緒にやろう」
ひとつ前の座席の背もたれを抱きかかえるようにして座ったのは、僕を「ドキ胸」と呼んだ村井だった。
「な、なんで……」
「適当にいつものメンバーで集まったら五人になってさぁ。じゃんけんで俺が外れる事になってん」
なんだ。じゃんけんに負けて仕方無しか。そりゃそうだ。
「良いよ」と言ったが聞こえただろうか。念を押して俯いたまま小さく頷き、ペンケースからシャーペンを取り出して意味もなく回してみる。
何かしていないと落ち着かない。今から村井と英会話の練習をするなんて。
「それテイルズアストレアのシャーペンやん!しかもクラウド!」
突然声を張り上げた村井がシャーペンを持つ僕の右手首を鷲掴みし、傍にいた数人の注目が集まる。
「シークレットのレアアイテムのやつやろっ。良いなぁ、まじかぁ、すげぇ」
中身を確認できないようになっている商品のものだ。しかもシークレット扱いで、更にレアなグッズ。
結構マニアックなゲームなうえに、このシャーペンも直接的にキャラクターが描かれているわけじゃなく、イメージカラーとマークがあるだけのオタク感の薄いもの。
まさか気付く奴がクラスにいると思わなかった。
でも、どうすれば良いのだろう。こういう時……腕を掴まれたままの僕の視線は床の上を右往左往する。駄目だ、これじゃ――。
「全部クリアした?二週目以降のクラウドの隠し秘奥義とか使った?」
僕が頷くと、村井は「すげぇ、すげぇ」と鼻息を荒くしていた。
「家に・・・他にも色々あるよ。フィギュアも全部揃ってるし」
まっすぐに目は見れない。相変わらず村井の襟元に視線を向けたまま。
苦手を恥ずかしいと思っちゃ駄目だ。でも、でも、大丈夫だろうか。
流石にフィギュアは引かれるかな。
すると村井は僕の不安なんて一瞬で吹き飛ぶような笑顔で瞳を輝かせた。
「うそやん、まじか!どうしよ、でも急やしな。うち、おかん仕事でおらんし、今日は俺んち来いよ。ミスティアの洞窟がクリアできへんねん、手伝ってや。そんで今度は俺が遊びに行くわ」
「あ、それとさ」と、村井がこめかみを掻きながら苦笑いする。
「変なあだ名で呼んでごめんな、時宗」
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