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蝶に誘われて
青い蝶を見たことがあるだろうか。
それも、銀にきらめく鱗粉を宙に巻きながら飛ぶ、コバルトブルーの蝶だ。
今、僕の目の前には、そんな美しく幻想的な蝶が、眩しい夏空をひらひらと飛んでいる。
中学校の帰り道。
父さんの仕事の都合で大阪の中学へ転校した僕の、この二日間の学校生活。
自己紹介の瞬間にだけ引きつった笑顔を作り、それ以外はずっと無表情だ。
笑う瞬間が無いとでも言えば、華々しく転校生として青春を謳歌出来ていない事は、わかって貰えるだろうか。
当然だが、聞こえてくるのは耳慣れない関西弁。
標準語は標準とはいえ、やはり百パーセント関西弁の中に飛び込めば、それはもう標準では無い。
僕が口を開くだけで、皆の視線が集まる。
それまで何の疑いもなく喋っていた言葉に好奇の目が集まる。
大人しそうなグループなら入れるだろうかと教室を見回してみたが、がっちりとグループで身を固め、その背中は外部を寄せ付けない壁みたいだ。
出来上がった輪に入っていくというのは簡単な事ではないという事を、この二日で思い知った。
それはきっと出身地など関係なく、子供の世界も大人の世界も変わらない。
初日には物珍しさから話しかけられる事もあったが、元来の人見知りが爆発し、言葉は噛むし、つっかえる。
極めつけだったのが、恥ずかしがり屋で人の目を見られない僕は、終始あらぬ方向に視線を泳がせて喋る。それに加えての、引きつった笑顔。
そのあらぬ方向、というのがうっかり右隣に立っていた女子の胸元の方を向いていた。
しかもそのタイミングで気味の悪い笑顔を浮かべたときたもんだ。
僕に興味を持って席を取り囲んでいた一人の男子が「お前、変態やーん!」と指差して笑った。
狼狽えながら誤解だと言ったが、二日目の今日は蜘蛛の子を散らしたように、それぞれのグループに帰って行ってしまった。
僕の名前は時宗と言う。時代錯誤で男前すぎる。完全名前負けだ。
そして今日、僕を変態呼ばわりした男子に朝イチで「どきどき胸胸のどきむね~」と最低なあだ名をつけられた。
そう、僕は二日目にして「ドキ胸」となった。明日を考えるだけで胃が痛い。
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