背中合わせの馬鹿と阿呆

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 手始めに髪を染めた。彼の持ち物はすべてチェックして、似たようなものを買いそろえた。彼のシラバスをこっそり盗み見て――法学部の彼と建築学部の保では共通科目のみなのが悔やまれるが――、スケジュールは完璧に把握した。  そしてその時、名前も覚えた。  河鹿冬馬。  名前までかっこいい。冬馬のことを知るたびに、保は高鳴る胸に気付いた。  もしかして、自分は冬馬のことが好きなんじゃないだろうか? そう思うと、そんなような気がしてきた。いや、きっとそうだ。小学生のころの初恋、カヨちゃんを好きになったときと同じ気持ちだった。  その初恋は、保のあがり症のおかげで、やはり大失敗した。  クラスで一番かわいいカヨちゃんは、教室の隅に座って、みんなが騒いでいるのを遠くで眺めているような、おとなしい女の子だった。  その時の楽しそうなのに、少し寂しそうな顔がなぜか心に響いて、以来、保はカヨちゃんを観察していた。  仲間に入りたいのだろうか? でも、本も好きみたいだ。お気に入りの髪型の日は、よく髪に触れて笑っている。  そんな保の行動はバレバレで、友だちからせっつかれた。 「カヨに話しかけて来いよ」  保は心臓がドキドキして足を震わせながら、カヨちゃんの机までいくと、彼女は驚いた顔をしていた。驚いてもかわいいな、と思ったら今度は心臓がバクバクしだして、保の頭は混乱しはじめた。  話しかけるって何を? 友だちになってください? でもそれじゃあ今友だちじゃないみたいじゃないか? 友だちじゃないと思ってると思われたら、カヨちゃんは傷つくかもしれない。でも、友だちじゃなかったら、なんだろう?  保の頭の中ではいろんな映像がながれはじめて、ぐちゃぐちゃになっていた。  ふと、その中に、昨日姉と見ていたドラマの映像が音声付きで流れ出した。 「結婚してくださいっ!」  それは姉の好きな俳優が出ている恋愛ドラマで、昨日はクライマックス。男がヒロインの前でひざまずき、手を握り、プロポーズをしていた。姉は「一度でいいから言われてみたい~っ! 女子のあこがれよねっ!」と目をハートにしていた。  女子のあこがれ。その言葉のせいで思わず口をついて出たのだろう。
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