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しかし、カヨちゃんからすればこれまでただのクラスメイトである保から、いきなりプロポーズをされてわけが分からなかったのだろう。しかも、その後ろでは男子がゲラゲラと声を上げて笑っている。
カヨちゃんは泣き出してしまった。
すると今度は女子たちが騒ぎ出した。
「なに泣かせてるのよっ! あんたなんかがカヨに近付かないでっ!」
「男子ってほんと最低~」
保は袋叩きにあい、初恋はもろくも崩れ去った。
そんな保にとっては悲しい、周囲からしたら喜劇のような初恋だが、あの時の胸の高鳴りはいまでもよく覚えている。いまも同じくらい、いやそれ以上かもしれない。
冬馬を見ると、心臓がドキドキバクバク音を立て、ぎゅっと締め付けられる。なのに、目を反らすことはできず、惹きつけられる。
冬馬が好きだ。
そう確信すると、思いは一気に加速した。完全にやることはストーカーなのだが、恋する男は猫のようにまっしぐらである。
――こっそり見るだけなら、いいよね?
そう、こっそりだったらよかった。
生垣から覗くプリン頭は、冬馬とその友だち、いや学内にいる全員に認識されていた。
冬馬の登校を確認すると、保は大学のカフェテリアへと向かった。一コマ分の時間いっぱい、冬馬を反芻するためだ。
「あんた、どうせ飲めないんだから素直にカフェラテにしときなよ」
「いや! 今日こそブラックで飲みます」
冬馬を真似て毎日ブラックを注文する保に、カフェテリアの店員、青井が忠告した。当然、昨日も飲めなかったものが、今日飲めるようになるわけもない。
「苦っ……」
熱いコーヒーを一口すすると、保はその倍以上の水をがぶ飲みした。
口に苦味を残したまま、保は宝物のペンケースと、365日書けるノートを開いた。分厚いノートは去年の四月から書き始めてこれで三冊目。その三冊目も半分近くが埋まっていた。
中身はすべて保が学内で集めた「冬馬情報」だ。
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