背中合わせの馬鹿と阿呆

4/34
前へ
/34ページ
次へ
 身長は保より3センチ高い178センチ。体重は65キロ。これは女子が叫んでいた。服の好みはシンプルなものが多く、美容院に行く回数は髪型や染めるタイミングをつぶさに観察して推測した。よく読む本は、歴史小説や雑学系。あとは法学部らしく新聞もよく読んでいる。学食で頼むのはラーメンが多い。特にみそ味。  癖なのか、しょっちゅう左のピンキーリングを回している。朝は弱く、登校時はとくにぼんやりしている。  日当たりのいい場所が好き。カフェテリアでは階段横の隅、背の高い窓のそば――今、保が座っている席だ――がお気に入り。  友だち? は多い。増減はするがひとりでいるより、誰かといることのほうが多い。彼女は、いまのところ見たことがない。よく、合コンに誘われてるのを聞く。あまりおしゃべりなほうではないし、楽しそうにも見えないが、たまに笑う時は左手の甲で口元を隠して笑っている。最近は、それもよく増えている気がする。  住んでいるのはおそらく都内。大学の最寄り駅から上り線に乗って帰る。やはり日当たりがいいところが好きなのか、三両目、扉のそばに進行方向に向かって立っている。保も真似して同じように進行方向に向かって立つようにしているが、下り線は西日が眩しいのが難点だ。  授業中も、よく窓の外を見ている。講義は聞いてないようで聞いているらしく、小テストではいつも満点だ、と冬馬の友だちが自慢気に女子に話していた。  サークルには入っていないが、講義が終わってからも学内にいることが多い。この席に座って本を読んでいるか、誰かと話しているか。バイトは、多分していない。  今日の分を書き終えて、これまでの「冬馬情報」を読みなおしている間に、飲み頃になっただろうコーヒーをすする。 「うぇぇぇ、まだ苦い」  飲み頃と言ってもそれは飲みやすい温度になっただけで、保にとって飲みやすい飲み物になるはずもない。今日もしぶしぶ砂糖とミルクを取りに、カウンターへ向かった。 「だから言ったろ?」 「試してみないことには、分からないじゃないですか」 「いや、あんた。入学してから一回もブラックで飲めたことないからな?」  おかしい。冬馬はおいしそうに飲んでいるのに。保はスティックシュガーを三本と、ポーションのミルクを四ついれてかき混ぜた。ぬるくなったコーヒーは砂糖のじゃりっとした食感がした。 「で、どうなの? 彼との仲も少しは進展した?」 「えへへ。昨日駅のホームで目が合ったのに睨まれませんでした!」  ほんの一瞬だったが、保にはその一瞬でもふたりだけの時間のように感じて、天にも昇る心地だった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加