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すぐに上り電車がホームに到着し、冬馬がいつものように前から三両目、進行方向を向いて扉横に立ったのを確認すると、下り電車もやってきた。保は西日を真正面から受けて立った。
電車は同時に出発し、すれ違い、遠ざかる。それでもなぜか保は、背後に冬馬の気配を感じていた。昨日のことを思い出し、にやけてしまう保に、青井は呆れた顔をしていた。
「あ、そう……。やっぱり一ミリも進んでないんだね。告白してフラれた割には、よく諦めないよね」
「それほどでも」
「褒めてないからな? ってそろそろ二コマ目、はじまるんじゃない?」
保はいまだに二つ折りのケータイ電話をぱかっと開き、時間を確認した。あと十五分で冬馬と同じ講義が始まる。
「やばっ! ベスポジゲットしないとっ! ごちそうさまでした!」
丁寧にお辞儀をすると、保は荷物を拾い上げ走った。
無事、冬馬のきれいな後頭部がよく見えるだろう席に座った保は彼が来るのを待ちながら、青井の言葉を思い出していた。
――フラれた割には、よく諦めないよね。
諦める、という意味が分からない。保は冬馬を見るのが好きだ。それはまったく飽きることもないし、この感情が消えることはないと思う。たとえかつてフラれていても。
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