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以来、保は冬馬に見合う男になるべく、努力している最中である。いつかまた、告白するために。それまではストーカーと言われようが、冬馬をこっそり見ることはやめられない。
そんな一年間で変わったことがある。
あの保に絡んできた三人と変わり、冬馬の隣にいる相手が変わったのである。
蒔田翔一。彼は社会学部の学生だ。髪はきれいに脱色された白。極端に斜めにカットされた前髪に、暖かくなってきた今でも、ピンクグレーの着心地の良さそうなライダースを羽織っている。
小柄でスリムな体形によく似合う細身のパンツは、彼をより一層スマートに見せている。
スマートなのは見た目だけではない。
二年生になったばかりのころに冬馬の隣に現れたかと思うと、ゴールデンウイークを過ぎたころにはそれが当たり前のようになっていた。まるで、冬馬のまわりを漂う風のよう。
冬馬の金髪と翔一の白髪。とても絵になるふたりに、保と同じように二人を見守る仲間が徐々に増えていった。
冬馬の後頭部を眺める講義を終え、建築学部の講義を聞き、学食で冬馬と同じ味噌ラーメンを注文し、午後に出された薗田教授の課題に頭を悩ませながら、カフェテリアへ戻ってきた。
「あんたほんと懲りないな」
注文することもなく、店員の青井が用意してくれたブラックコーヒーを一口。相変わらず苦さに顔をしかめる。
「今朝は無理でも、夕方なら大丈夫かなって思ったんですけどね」
やはり、苦い。青井がほかの学生の接客に行くのを見計らって、そうそうに砂糖とミルクを入れて、そのままカウンタ席に座った。
視線の先には夏の日差しを受ける、神々しいまでに光り輝く冬馬と蒔田がいた。
冬馬は相変わらずぼんやりと外を見ているし、そんな冬馬に蒔田はゲームをしながらあれこれ話しかけて、冬馬がたまに相槌を打つ。
ただ冬馬の友だちがあの三人組から蒔田に変わっただけ。ほかの人にはそう見えるだろう。
けれど、一年以上冬馬を見続けてきた保にはわかる。蒔田といるときの冬馬は、自然体どころかとても安心してリラックスしているようなのである。これまでの友だちといるときと、明らかに違う。だから、なのかもしれない。冬馬しか見えない保には三人組ですらぼんやりとしか思い出せないのに、蒔田の顔だけははっきりと見えた。
冬馬の特別……。
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