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立ち止まって思い出そうとしていたら、一台のバンが寄ってきた。車の窓を開け、男が話しかけてきた。
「どうしたんですか、こんな夜更けに」
「あのう、近くにビジネスホテルはありませんか、見つからなくて」
「この辺りにはビジネスホテルなんてないですよ」
男はぼくを上から下まで見回し、含み笑いをした。
「電車で寝過ごしたんですね、革靴だ。酔っているみたいだがよくコケなかったもんだ」
いかつい顔だが、優しい眼差しをしている。
「ここから離れているけど、妹が民宿をやっています。あまりきれいじゃないけど、良かったらそこに案内しますよ」
一瞬警戒したが、悪そうな人には見えない、とにかくどこかに宿を取らなくては。
「助かります、そこに連れて行ってください」
男に会釈をして助手席に乗った。車は山道に入って行く。
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