義史

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 夕暮れ時だった。書庫を出、バルコニーから玄関付近を眺めていると、不審な行動を見せる義史を見つけた。  帰ったばかりらしく、背広姿である。  穏やかな雰囲気を持つ義史が、目を血走らせているのが、二階からも確認できた。  共に行動しているはずの、有朋は見当たらない。  別行動だったのか、帰りは別だったのか。  とにかく二人はあまり、気が合わないらしいから、仕事以外では離れているのだろうと思われる。  なにが起こるのだろう。胸騒ぎよりも先に、好奇心が湧き上がる。  数日の内にすっかり、圭は探偵助手になってしまったようだ。  以前なら、人の行動や感情など、よほどでなければ興味を示したりはしなかった。  今は、探偵小説を捲る楽しみを、現実の世界に見出している。  変われば変わるものである。  期待を持って、義史を観察し始めて十五分くらい経っただろうか、有朋が帰って来たのが確認できた。  痩躯に、背広はあまり似合わないものである。有朋は肩幅も広い方ではない。  その点に置いては、圭は優越感を持てた。 圭は華奢であるのに、肩幅は広めで、怒り型である。  男らしく無い容姿であるが、肩だけは自慢ができた。
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