義史

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 有朋は、義史の両手首を掴んだ。 「冷静を失っているみたいですけど、もしかして僕のせいで、取り返しのつかない事でも起きたのですか?」  有朋は魔法の言葉を吐いたのだろうか?  義史の手から一気に力が抜けた。  怒りで真っ赤だった顔が、血の気を失いかけている。 「そ、そんなはずはなかろう」 「ではなぜ、こんな真似を?」  義史の口の端が、頬が、目が、まるで意思を持った小さな虫のように動いて見える。  怒りを押し殺し、恨みを噛み殺しているのが、手に取るようにわかる。  それら負の感情を正面切って受けながら、有朋は愉快そうだった。 「今後、映子には近付かないでくれ」 「それは、僕の言うべき言葉です。  映子さんによく、言い含めておいて下さい。  いや、さっさと嫁に出して頂きたいものですね」  無礼な言葉に、義史は歯を剥き出さんばかりである。  それでも耐え、荒々しい声ではあったが、相手はもう決めている! と答えたからには、義史も決して、穏やかなばかりの紳士ではないのであろう。  自宅の玄関に向かう足取りは、地震が起きないのが不思議な程の乱暴さであった。
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