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「おりますよ。一見優しそうで、魅力的な人が多いのです。
お分かりになりませんか?」
有朋は暫く考えていたが、わからないらしく、その心は? と、軽い調子で問うた。
「興味の欠片も持っていないのに、甘い言葉を囁く色男なんて、女性や、娘を持つ親から見れば、とんでもない悪人だとは思いませんか?」
「なるほど、財産を奪うでも、暴力をふるうでもないから、罪は犯していない。
君はずいぶんとませたことを考えるのだね。
最初は、大人しいだけの子供だと思っていたけど。
その悪人って、君のこと?」
「まさか。
私はさっき、相馬さんが仰ったように子供ですから」
有朋は圭を真っ直ぐ見た。その目には明らかな敵意が見える。
「しかし、彬子さんも映子さんも、君に夢中じゃないか
最近の華族は品がなくなってきていると言われるけど、君を見ていると、人によるのだと思うね」
玄関の付近では、竜胆の紫が、近付く闇の為に、人の視界から消されようとしている。
黒よりも闇に近い、色鮮やかな暗さを持つ、美しい紫が。
「どなたからお聞きですか?
私は華族だったことは、この屋敷の方に話した覚えはありませんが」
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