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いかにも落ち着いた風を装っていたけれど、一瞬息を止めたことで、有朋がうろたえたのを理解した。
「社長に」
「高林氏とは、面識はありません。
彬子夫人は、私の両親をご存知ですけれど」
「社長は彬子さんに聞いたのでしょうね」
苦しい言い訳の後すぐ、魅力的な笑顔を見せた。
「君のご両親は、仲は良くなかったの?」
突然の馴れ馴れしい言葉遣いが、さほど嫌な気持ちはしない。
「いいえ、評判の鴛鴦夫婦でした」
「失礼。
君の、人への態度が冷たいのは、不仲なご両親を見て育ったからかと思って」
有朋自身の経験によるものだろう。
「私は、生まれ持った性格でしょう」
「僕が嫌いでしょう?」
どういう意味で言っているのだろうかと、有朋を見た。有朋は目を閉じたまま、言った。
「長瀬さんを取られるのではないかと、思っているのでしょう?」
開かれた目は、感情を何も、示してはいなかった。
「逆だよ。
君が取るんだ」
どういう意味なのか、問おうとしたが、叶わなかった。
「噂をすれば、影。
行こうか」
勝手に、有朋は階段を下りて行く。
圭は荷物を手にすると、彬子にお暇の挨拶に行った。
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