事件

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 運転手は手の甲で汗を拭うと、こっちへ来いとばかりに手を振る。 「何があったのですか?」  運転手の落ち着きの無さに、不安がよぎる。 「は、はい。社長が大変な事に」  義礼?   隼人は有朋の叔母を捜索するはずだが?   と考えはしたものの、運転手はそれ以上説明をしようとせず、と言うよりも、答える余裕は無さそうなので、手帳や万年筆を仕舞っている鞄を手にすると、運転手の招きに応じた。 「高林さんに、何が起きたのですか?」 「警察に、聞いて頂けますか?」  隼人の質問に答える余裕もないらしく、運転に忙しい。 (警察ってことは、事件? 事故?)  昨日の義礼を思い出せば、もしや。と思わないでも無かったが、運転手は、死の一言は出していない。  道の、整備されていない下町を抜け、暫く走ると、突然、塀の並ぶ、屋敷町が姿を表した。  初めてだった。二人で出掛ける事はあったが、互いの家を訪ねた事はない。  古いが美しい和舘の奥に、和洋折衷の新しく、大きな屋敷が見えた。 「こちらです。どうぞ」
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