義史

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 有朋にとっても、隼人は大切な、おそらく生涯第一の友なのだろう。  なのに、圭がいつもまとわりついている。  少なからず、憎らしい気持ちに苛まれ、大人げない態度をとるのだろうか。  だとすれば、根が悪かろうと、そうでなかろうと、圭にとってはうっとうしい相手になるのは間違いない。  面倒な反面、仕方ない。と、諦めの気持ちも湧き上がる。  家まであと僅かの距離で、向かいの家の前で、一人の男がおかしな行動をしているのに気がついた。  玄関扉の取っ手を、両手でガチャガチャ回している。 「あの男!」  隼人が駆け出す。  今まで忙しく、自分の作業に夢中になっていた男も、足音が聞こえたのか、振り返った。  その顔。  忘れもしないあの警察官だ。    公僕でありながら、山科の手下に成り下がった恥知らず。  圭は拳大の石を拾い上げると、逃げる男の足を狙って投げつけた。  腕力は大したことはないが、的中率には自信があった。  走る速さを計算して、投げた石は男の左脛に当たり、怯ませることには成功したが、隼人との距離を縮めるのは無理だった。  隼人は、早々に男を捕らえるのを諦め、息せき切って戻って来た。 「渡辺さん、長瀬です」
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