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玄関前で声を掛けると、近くにいたらしく、紳士が顔を出した。
いつ見ても洒落た格好で、機嫌の良い紳士に、圭は好感を持っていた。
「助かったよ。
さっき、息子一家が嫁の実家に行ったんだが、一人になった途端に、あの男が」
「俺の責任です」
「いやいや、単なる逆恨みだよ。
君に責任はない。
おぉ、近くで見ると、ますます似ているね」
外国人のように両手を広げ、紳士の興味は圭に移った。
「似ている。とは?」
挨拶以外で、言葉を交わすのは初めてだった。
「初恋の君にだよ。
君のような、清しい目の、ノーブルな美貌のお姫様だった。
生涯で二番目に、恋する女性だ」
女性と一緒にされるのは気になるが、紳士の言葉は優しく、可愛らしい。
「一番の女性は?」
つられて、圭は問うた。
「もちろん、妻だよ。
可愛くて、優しい、最高の妻であり、素晴らしい母であった。
私がいつもこうしてお洒落をしているのは、いつ、妻がお迎えに来ても構わないように、用意しているのだよ。
彼女は、洒落者の私しか知らないからね」
恐ろしい目に遭ったはずだが、紳士は明るい。
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