哲学

2/6
前へ
/269ページ
次へ
 「外部の人間ではないな」  夕食を終えてお茶を飲みながら、隼人は断定的に言った。 「根拠は?」 「まず、あの家の構造を考えれば、わかるだろう?  義史邸のように全て洋室にしていれば、扉だから部屋の音は外に漏れず、鍵も掛かる。  しかし、義礼邸は全て和室だ。  殆どの部屋が紙か硝子の障子で、唯一の例外は彬子夫人の部屋だけ。  それでも襖なんだ」  義礼の寝室は書斎の奥で窓も無く、廊下に面してもいない。  書斎は、障子の真ん中辺りは硝子張りで、中が確認できる。  そうでなくとも、人の影が映るのだ。  一人暮らしならともかく、高林家には、家族もいれば、使用人もいる。 「まぁ、確かにな」 「どうでしょう。  資産家が殺されそうになった。  となると、まず疑って見るべきは、被害者がいなくなって得をする人間です。  まず、彬子夫人はあり得ません。  義礼氏が亡くなれば、未亡人としてつましく生きていくことは可能でしょうが、実家への援助は期待できないでしょう。  次は相馬さんですが、養子縁組が終わった後ならともかく、まだなのですから、今死なれては困るのです」
/269ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加