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書斎を出て、一つ隣の部屋の障子の、硝子部分から覗く。
布団が敷かれ、義礼が横になっているのが確認できた。
枕元に医師と看護婦がおり、少し離れた場所に、奥方らしき、若い女性が座っている。
誰も隼人や有朋には気付かないらしく、誰も視線を向けなかった。
「あの女性は奥さん?」
「はい」
一瞬だけ、有朋の視線がそれた。
が、すぐに、真剣な眼差しを隼人に戻し、首を傾げる。
「どうしました?」
「俺が呼ばれた理由がわからないのだが」
「犯人を捜して下さい」
「犯人って、警察が」
「警察など、あてにできません。
早急に見つけなければ、今度こそ、命を奪われるかも」
涙を流さんばかりに、潤んだ瞳。叫び声を挙げまいと、結ばれた唇。
父の様な存在の義礼ならば、特別な感情を持っていもおかしくはない。
と思いつつも、有朋の悲壮な様子を、必死の言葉を、声を、額面通りに受け取れるほどの誠意を感じない。
「駄目ですか?」
心配そうな表情を作る有朋に、隼人は興味を持った。
義礼を傷付けた犯人を捜す。と言うよりは、自分の知らない有朋を探りたい。
それが隼人の本音だった。
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