事件

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 「私が帰宅したのは夜の九時過ぎ。  その後はずっと、こちらにおりました。  余程の用が無ければ、互いに行き来はしません。  仲が悪いのではありませんよ。  互いに家庭を持っておりますから、夜は寛ぎたいのです。  兄と顔を合わせるとどうしても、仕事の話になってしまいますからね」   義史は、隼人の質問に要領良く答えると、溜息を一つ吐く。 「それにしても、誰がこんなことをしたのやら。  仕事の関係で恨まれる事も、妬まれる事も多いとは自覚していますが、殺されなければならないようなことはしていない」 「警察にも訊かれたとは思いますが、犯行があったと思われる時間、二十三時から七時、随分長いですが、皆様はどちらにおいででしたか?」 「私は戻ってから調べ物をしておりました。  零時頃腹が減ったので、蕎麦を作らせて、其れからまた一時間程調べ物を続けて。  湯を浴びて床に入ったのは、二時頃でしたか。  妻は寝ておりました」 「私は、十時には寝室に」 「お嬢さんは」 「ねぇ」  興味津々で隼人を見ていた映子は、甘えるような声を出した。 「貴方の髪、(かつら)なの?」 「は?」
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