事件

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 咲江は困惑の表情を見せた。妻同士はあまり、仲は良く無いらしい。  隼人は、さっき義史が言った、高林を憎む者、妬む者の名の住所をあげさせると、その理由を問うた。  殺したいと思っているであろう人物。と、制限をつけた為か、名は四人に留まったが、怪我をさせる程度ならば、十倍は居るだろうと言った。  隼人も、父親が実業家であるから、取り引きやら、金銭の問題やらで、人の恨みを買い易いことは知っている。  それにしても、四十人は多すぎる。  義礼は、利益の為なら義理人情も蔑ろにするらしいから、それも仕方あるまい。  義史邸を辞し、有朋と共に庭に出る。  広いことは広いが、庭の何処にいても、警察官の目から逃れる術は無い程度だった。 「ところで君は、昨夜書斎を辞してから、どうしていたの?」 「自室で本を読んでいました。勿論、証明してくれる人はいません」 「君の部屋は、二階にあるのだったね」 「はい。  一階には社長の書斎と寝室、彬子さんの自室と寝室、応接間があり、二階には僕の部屋と書庫があります」 「奥様がいらっしったのはいつ?」 「僕が十六の時だから、十一年前かな」 「結構遅かったのだね」
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