事件

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「そうかも知れません」 「奥様の事、訊いてもいいかい?」  伯爵家の令嬢。で、始まった。 「長瀬さんも知っているでしょうね、神岡伯爵家」 「十年位前に、事業の失敗で没落した」 「その直後嫁いで来ました。  夫婦仲は良いとは言えません。彬子さんは気位の高い人だし、社長は仕事一本槍だし」 「子供は?」 「いません」 「奥様の実家には、援助をしているの?」 「はい。生活には不自由しないけれど、馬鹿な事を考えられない程度」  失礼な言い方に、隼人は眉を顰めた。 「僕の言葉じゃありません。彬子さんが言ったのですよ」  悪びれもせす、有朋は言い訳する。 「そう。  話は変わるけど、義礼氏が殴られたのは、頭かな?」 「この辺り」  有朋はほっそりとした人差し指を、隼人の右こめかみにぶつけた。 「右側?」 「はい。  警察が来るまでの間に、間近で確認しました。確かに右側です」 「どんな傷だった?」 「凶器は、女神像で間違いないでしょうね。皮膚が抉れていました」
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