事件

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 「しかし、鍵の掛かった屋敷で、遅い時間に犯行が行われたってことは、ごく親しい相手に限られるんだよな。  そう考えると家族が怪しいが、事業の要である義礼氏を殺すのは、不自然だ」 「僕なら、どうでしょう」 「憎む理由があるの?」 「いいえ。  でも、犯行動機が憎しみだけとは限らないでしょう? 存在が邪魔だとか、逆に、愛情故に、自分だけのものにするための殺人だってありましょうし」 「そんなことを言ったら、容疑者が絞れないし、君も容疑者だぜ。  義礼氏が目を覚ませば、犯人が誰かは直ぐに知れるだろう」 「そうでしょうか?」  挑戦的な声。まるで、犯人に挑まれている気にさせられてしまう。 「親しい相手であれば、庇う可能性だってありますよ。  社長はね、仕事に関しては冷酷とも思える判断ができるけど、情に脆い部分もあります」  有朋は、家族を疑うよう、隼人を誘導しているらしく感じた。自らを含めた、高林家の人間を疑え。と。  理由を問うても恐らく、そんなつもりはない。と言うに違いない。  義礼の傍には奥方の彬子も、看護婦もいる。屋敷の内外には、警察官もいる。誰が犯人であろうと、危険はあるまい。
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