旧友

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 九月半ば過ぎても、まだ夜は蒸し暑い。  開け放った窓から流れ込む風は、生温かいばかりで涼を取るのに役に立たないばかりか、虫を招き入れる為、隼人はやむを得ず、閉めることにした。  いつの間にやら、陽が落ちるのが早くなった。  闇によって窓硝子が、鏡のように映す。  混血を表す紅い髪、彫りの深い、はっきりとした二重と、鼈甲色(べっこういろ)の瞳。  肌の色は日本人と変わらぬが、全体的には西洋寄りの姿である。背丈は六尺ニ寸と高い。  名を、長瀬隼人(ながせはやと)と言い、数え二十九歳である。  玄関扉には、『長瀬萬請負(ながせよろずうけおい)』とある。  六畳の狭い事務所には、本棚と机一つ、客用の椅子二つしかない。  玄関扉が開いた。 「遅いな」  男は入って来るなり開口一番、隼人を責めるように言った。 「どうした?」  男は名を中里勇一郎(なかさとゆういちろう)と言い、新聞記者である。  垂れ気味の目は一見優しいが、鋭い光が宿っている。  無造作に跳ねた髪は、忙しくなると伸び放題に伸び、動きやすさを重視して袴姿が多い。
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