旧友

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 『八月十六日    明和日日新聞  透き通った白き肌にまるで椿の花弁を思わせるが如き傷口生前はたおやかにして美しき喉元は見るも無残に刃物で抉られ血肉は可也欠損しておった奇なる事に殺された女の体には血液が一滴も残っておらず之は鬼の仕業ではあるまいかと思わせる死体となりて見つかった美しき花を乱暴に手折ったのは悪鬼かそれとも妖怪かはたまた残忍な男なのか』 「講談だな、まるで。  もっとまとな新聞読んだほうがいいぜ」 「事務所の引越しやらで忙しくて、その辺りの新聞は読んでいないんだ」 「成程な。  血を抜き取るなんざ、西洋の吸血鬼って妖怪みたいだな。  まともな記事を読ませてやるよ。  さ、帰ろうぜ」  調べ物を一通り終えて、隼人は茶を飲みながら、新聞を読んでいた。  金持ちの起こした事故、華族の醜聞、代議士の禁じられた恋愛。  そんなどうでもいい記事の傍らに、『少年男爵 爵位返上』と、ほんの四行。  父である先代が二月に船の事故で亡くなり、爵位を継いだばかりの十五歳の少年。  華族とはいえ先代は勤め人であり、妻と息子、使用人一人の慎ましやかな生活だったようだ。  少年の不幸は続く。
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