旧友

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 名を相馬有朋(そうまありとも)と言い、隼人が知る限り、最も美しい人物である。  印象的に大きな目、赤い唇。  二十代半ばでありながら、中性的な容姿は変わっていない。  ふと横を見ると、三揃えを品良く着こなした紳士が立っていた。 「そちらの方は?」 「僕の雇い主の、高林義礼(よしあきら)です」 「高林? 高林商事の?」 「はい」  義礼が会釈したのに合わせて名乗ると、事務所に入るように、手で示した。 「申し訳ありません。こちらへどうぞ」  年は五十手前だと、何かで読んだ記憶がある。  一見、年齢より若く見えるが、髪は半分近く白くなっている。  背丈は隼人より二寸程低いだろうか。  やや角張った顔に細い目。実業家というよりは、武士の風格を持っている。  日本で、彼を知らぬ者はおるまい。  小さな商家の長男で、幼い頃から秀才の誉れが高かったそうだ。  加えて、先を読む目に優れ、今や、小さかった商家は、財閥に今一歩と言われるまでに大きくなった。 「高林様のご依頼は?」 「いえ、依頼したいのは私ではなく、相馬なのです」  有朋がニコリと笑んだ。 「僕の従兄弟を捜して頂きたいのです」
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