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少年
盆を過ぎたものの、夏の陽はまだ高く、湿気を多く含んだ空気は、額の汗の粒を更に大きくした。
握り締めた手の平にも、じんわりと汗が主張しているのに、全身から体温が徐々に奪われていくのを感じる。
白い、気の早い秋桜が、風に戦いでいた。
少年は、地面の上に仰向いたままの母親を、じっと見つめていた。
蝋のように白い肌と、光を失った黒い瞳を。
事切れているのは、明らかだった。
警察に連絡すべきだと心の中では理解しつつも、体が動かない。
「いっそ、私も」
連れて行って欲しかった。との呟きは、声にならなかった。
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