神に赦しを

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 血飛沫が宙を舞う。一瞬の静寂のあとに、白目を剥いた巨体が轟音を立てて倒れてーーそして、わあっと歓声が上がった。 「すげえ、すげえ!さすがだよリヒト!」 「あんなにでっけぇ大人を倒しちまうなんて……!」  きらきらした羨望の眼差し。俺を取り囲む、まだ背の低いガキんちょ共。泥にまみれた顔も、擦り切れた服も、俺と同じ。仲間の証だ。  その中でもとりわけ小さいガキの癖毛頭を撫でる。生まれつきこの髪らしい。酷くからかわれていたから、いっちょ喧嘩を教えてみたら、思ったよりも物覚えが良かった奴だ。だけど、ちょっと臆病なところは未だ健在らしい。図体ばかりが大きい大人のポケットから硬貨を数枚抜き取ると、その紅葉みたいな手にしっかり握らせた。 「ほらよ、もう盗られんじゃねぇぞ」 「うん、うん!ありがとう、にいちゃん!」  いい笑顔だ。意地張って決闘申し込んだ甲斐があった。  ガラの悪い大人に、必死で物乞いしたお金を盗られた、奪われたと、鼻血たらたらで泣きついてきたのが昨日のこと。許せねえと皆で憤怒して、その大人を見つけ出したのが今朝のこと。そして、腕っぷしが強いって理由で、リーダーと祭り上げられている俺が決闘を申し込んだのがさっきのことだ。せっかく頑張ったんだ。もう少しと欲張って硬貨を抜き取ると、にひっと笑って拳を振り上げた。 「おーし、ついてこい皆の衆!今夜は宴だ!」 『おおーっ!』  蹴りが掠ってできた痣は、まだ気づかれてないらしい。仲間が怪我したとあらば、血相変えてすっ飛んでいく皆の影は、まだない。そのことに少しホッとしながら、先頭切って歩き出した。 「……見ぃつけた」  ほの暗く、されど嬉しそうに頬を緩ませる影に、気づくことなく。
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