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ここ、スラム街じゃ、誰かのものを奪う奪われるなんて日常茶飯事だ。人に親切したって仇で返され、骨と皮しかないガキは次々に死んでいき、運良く大人になっても、子供から食い扶持を奪うようなクズになるのが当たり前。
でも、俺たちは易々と死ぬようなバカじゃない。
スラム街にいる子供と徒党を組み、襲ってくる大人たちを数の暴力で返り討ちにした。報酬は山分け。皆は仲間。そう決めて、俺たちは生き延びてきた。今や、大人たちでさえ恐れをなす群団だ。
今日は臨時収入があったのでご馳走だ。温かいスープは具沢山で、兎の干し肉は人数分ある。パンには木の実が練り込んである上、デザートに蜂蜜だってあるのだ!量は少ないが、皆嬉しそうだ。その顔を眺めるだけで、心がポカポカする。
五十人を超える大所帯だが、俺がリーダーになってから一人も欠けていない。それもこれも、今までが豊作続きで食糧が賄えていたからだ。いつ不作が起こるかわからない。さて、どうするべきかと頭を捻らせていたところ。
「シュリヒト」
隣で誰かが座ってきた。教会の鈴のように綺麗な声と、俺の本名を呼ぶ奴という特徴で誰かはわかる。
「何だよミモザ。お前も飲む?」
「ううん。私、お酒は苦手だもの」
スラムの人間とは思えない、上品な笑い方だ。それも、この銀髪碧眼の少女は、最近来たばかりの新参なのである。親が事業に失敗して捨てられたという経歴の持ち主だが、憐れむ奴はここにはいない。親に捨てられた奴ばかりだからだ。かくいう俺も、赤子のときに捨てられている。
「それよりも、シュリヒト、怪我してるじゃない。大丈夫?」
「ああ、この痣?平気。ありがとな」
そそくさと左腕を隠す。格好悪いところを見せてしまった。心配そうなミモザの頭を撫で、酒を置いて立ち上がる。
「あーっ!酔いが回ってきた。顔あちぃ……風にあたってくるな」
「うん、了解しました。早く戻ってきてね」
「おう!」
海兵の敬礼みたいなポーズのミモザに見送られ、早足で路地裏へ駆け込んだ。酔いが回った何て嘘だ。じゃあ何かといえば、照れ隠しである。顔が熱いのは本当。
重い息を吐く。最近、ミモザを前にすると顔が熱くなる。他の仲間たちと同じように話せない。どういうことなんだろう。何かの病気か?薬って高いんだよな、と顔をしかめた。ーー直後。
「ん、青春してんね、少年!」
ハッと顔を上げた先に、窓に座って足を泳がせている人影があった。
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