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予想に反し、仕事は楽なものだった。掃除を主として、たまに芋の皮むきや洗濯物の取り込みを頼まれる程度。それでも宮は無駄に広いので、自由時間は皆無……というわけではなかった。
毎日、石鹸の買い付けを頼まれるのだ。その際、街に降りるので、そこで自由時間を満喫できる。俺はいつもスラムに赴いて、皆に顔を見せていた。
使用人になってから初めてスラムに帰ったときは、皆に大号泣された。良かった、生きてた、てっきり売り飛ばされたのかと、とあれこれ言われ、心配かけてしまったなと反省した。
「早く戻ってきてねって、言ったじゃない……!」
特にミモザは、事情を説明してもなかなか泣き止まなかった。挙句の果てには金貨なんかいらない、帰ってきてよと叫ぶ始末。とにかく、チグリがちゃんと金貨渡してたようで何よりと胸を撫で下ろすに至った。
「坊っちゃんはねぇ、優しいんですよ」
ある日、芋の皮むきをしていたら、サランが優しく話しかけてきた。
「リヒトは、スラムから来たんでしょう?」
「おう」
「私もねぇ、身寄りがいないんですよ」
ふっと、その目が翳る。
「みぃんな、神族に奪われた」
神族。脳に稲妻が迸る。
神族とは、この国の頂点に座する一族だ。王族よりも上の位を抱き、神族のやることなすことは全て許される。民に慈悲を垂れる役目を負っていると宣い、実際は人を虫けらのように扱う畜生だ。スラムにも、神族のせいで天涯孤独になった子が沢山いた。
「トルエノも、ルーナも。そこに坊っちゃんが現れてねぇ、慈悲をくださったんです」
何も言えなかった。
厚遇なのは事実だ。サランたちのことは知らないが、皆に金貨をくれる。恩に着せることはなく、目が合えば笑顔で手を振ってくるし、お菓子と椅子を持ってきて、世間話に花を咲かせることもある。気安くて話上手で、根明で優しい。
「本当に、神様みたいな御方」
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