第一話「逆鱗」

10/13

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
エレベーターホールから出てみると、もうあたりに太陽の光は残っていなかった。  「今日はごちそうになりました。」  「いえいえこちらこそ賑やかで楽しかったよ。」  するとトカゲさんの横から杏が顔を出し、  「また来なさいな。」  「うん。」  わたしはうなずくと、駅へ続く真っ直ぐな道を歩き出した。後ろからたたっと軽やかなステップが聞こえた。  「駅まで送ってくよ。」  「えっでも…」  「気にしなくていいよ、皿洗いしたくないだけだから。」  「なかなかトカゲさんもワルですね。」  彼はケラケラ笑ったかと思えば、嘘みたいに静かになり、  「そうだよ、僕は善人なんかじゃない。」  わたしは思わず立ち止まった。  「どうしたの、フフッ」  トカゲさんも踏みとどまった。  「なにか、あったんですか。」  「別に。」  
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加