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エレベーターホールから出てみると、もうあたりに太陽の光は残っていなかった。
「今日はごちそうになりました。」
「いえいえこちらこそ賑やかで楽しかったよ。」
するとトカゲさんの横から杏が顔を出し、
「また来なさいな。」
「うん。」
わたしはうなずくと、駅へ続く真っ直ぐな道を歩き出した。後ろからたたっと軽やかなステップが聞こえた。
「駅まで送ってくよ。」
「えっでも…」
「気にしなくていいよ、皿洗いしたくないだけだから。」
「なかなかトカゲさんもワルですね。」
彼はケラケラ笑ったかと思えば、嘘みたいに静かになり、
「そうだよ、僕は善人なんかじゃない。」
わたしは思わず立ち止まった。
「どうしたの、フフッ」
トカゲさんも踏みとどまった。
「なにか、あったんですか。」
「別に。」
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