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「息切れてんじゃん、どったの。」
「トカゲさんが急に競歩、始めるからです。」
「記憶にない。」
「ひどっ」
「ひどくないっ…てもう駅か。」
「早い、ですね。」
わたしはわざとゆっくり歩いて、今度は彼の歩幅を乱した。黙りこくったまま、次々と人を上へと運んでいくエスカレーターに向かった。途中彼は天井を見上げて、
「監視カメラにツバメが巣つくってらぁ。」
「ついてる鳩除けみたいなの、むしろ巣作りやすくしてません?」
「そうだね、そうしてるのかも。」
あっという間に我々は改札口に着くと、
「じゃあ…。」
「うん。」
彼は改札口に入っていくわたしに手を振ってくれた。わたしも手を小さく振ると、彼もまた手を振り返した。彼がその手を振るたび、プラチナの指環が小さくちらちらと光った。思わぬ一撃を負ったまま、わたしはプラットホームに到着した。ちょうど上の掲示板に『電車が来ます』と赤い文字が流れていった。
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