第一話「逆鱗」

12/13
前へ
/26ページ
次へ
 「息切れてんじゃん、どったの。」  「トカゲさんが急に競歩、始めるからです。」  「記憶にない。」  「ひどっ」  「ひどくないっ…てもう駅か。」  「早い、ですね。」  わたしはわざとゆっくり歩いて、今度は彼の歩幅を乱した。黙りこくったまま、次々と人を上へと運んでいくエスカレーターに向かった。途中彼は天井を見上げて、  「監視カメラにツバメが巣つくってらぁ。」  「ついてる鳩除けみたいなの、むしろ巣作りやすくしてません?」  「そうだね、そうしてるのかも。」  あっという間に我々は改札口に着くと、  「じゃあ…。」  「うん。」  彼は改札口に入っていくわたしに手を振ってくれた。わたしも手を小さく振ると、彼もまた手を振り返した。彼がその手を振るたび、プラチナの指環が小さくちらちらと光った。思わぬ一撃を負ったまま、わたしはプラットホームに到着した。ちょうど上の掲示板に『電車が来ます』と赤い文字が流れていった。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加