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わたしは花畑にいた。一面の、名前のわからない色とりどりの花たちがどこまでも広がっていて、わたしはそのてっぺんでライラララと聞いたことのない歌を口ずさむ。あまりにも身に覚えのないことばかりで、わたしはわたし自身ではない気がした。突然、風が吹き荒れてわたしは顔を腕に埋めた。花々は千切れて飛んでいきそうになりながらも芝生に隠れた長い根っこで踏ん張っているようだった。突風が止んでわたしは顔を上げると、向こうの丘で大きく手を振る者がいた。わたしも体全体で手を振り返すと、その者はこっちに走ってきた。その足取りは見惚れる程軽やかで、あっという間にわたしとの距離が縮まっていった。しかし、なぜだかその者の顔はいつまで経ってもはっきりとせず、ベールでも被っているみたいでわたしの瞳にはおぼろげに映ったままだった。それでもわたしが一生懸命目を凝らしていると、どこからか霧が丘を覆い始めた。霧が濃くなるにつれて、さっきから遠くの方で別の誰かがわたしを呼んでいる気もする。もう少しで顔の見えない君が誰なのかわかりそうなのに、濃霧はお構いなしにわたしの視野を奪った。
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