第一話「逆鱗」

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 「ピッ」  改札に定期券をかざして、わたしは下るエスカレーターの列には並ばず階段をかけ下っていく。早暁堂書店の看板の文字が見えると、すぐさまわたしは自動ドアまでたどり着いた。いつもそこのドアがセンサーで開くのかタッチして開くのか、毎回忘れてとりあえず指を伸ばしたとたん、ドアはぶっきらぼうに開いてわたしは手をひっこめた。入るとすぐレジの店員さんから死角になる棚の向こうへ隠れると、わたしは平置きにされた新刊の漫画をまじまじと眺め、背表紙の並ぶ棚に目をやった。作品を体現すると言ってもおかしくないタイトルの独創的な字体だったり、背表紙の絵が繋がっているものを見つけると、一種の巻物を鑑賞しているような気分になった。わたしはある程度偵察を終えると、くるっと方向転換してハードカバーの島へと上陸を開始した。かがんだわたしは小さく指さししながら、「ぼうこく…ぼうこく…」と呟いていると、藍色の表紙に鈍く輝く『亡国伝説』という文字が目に入った。すかさずわたしは証書を受け取ったがごとく両手でその本を包んで胸を熱くした。  
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