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「あっ杏だ。」窓を開けておーいと彼は手を大きく振った。
わたしは麦茶をがぶ飲みすると少しむせて、
「帰ります。」
「えっもう帰るの。」
「ちょっとけんか中なので。」
「そうなんだ、いいね。」
「はい?」
「ううんなんでもない、階段を使えばはち会わせしないはず。」
「おおっなるほど、どうもです。」
会釈をするとわたしは学校鞄を背負ってすり切れた運動靴を踵が浮いたまま、玄関を開けた。ぐるぐると階段を下りていった。壁にあるパネルの数字が四、三、二と小さくなっていくのが目に入るたび、わたしの鼓動は次第に大きくなっていた。一階に着くと、どこか飛び出してしまいそうな胸をこらえて、わたしはホールを見回した。そしてエレベーターのランプが上がっていってるのを見つけると、わたしはやっと落ち着くことができた。
「あれ、胡桃じゃない。」
その声にぎょっとすると、ふくらんだ買い物袋を抱えた姉がいた。
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