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「上に行くつもり?」
「もう帰るところ。」
「そう、せっかくだし夕飯食べてかない。今日はギョウザにしようかと思って。」
杏は買い物袋をかかげて何事もなかったかのように微笑んだ。
「ギョウザで機嫌とれるほど幼くはないよ。」
杏は面倒くさそうに、
「まだ怒ってるの、トカゲにあんたの絵見せたこと。」
「勝手に人の物さわる奴がいるか。」
「置き忘れるのが悪いんだい。」
「はぁ?」
ちょうどチーンとエレベーターが鳴り、扉が開帳すると仏のごとくトカゲさんが現れた。姉妹は一瞥はしたものの、彼と見るや瞬時に向き直った。
「いいの?トカゲさんと付き合いたてホヤホヤの頃に杏が書いてたラブレター斉唱しても。」
「こっちだって胡桃のあ〜んな絵やこ〜んな絵、トカゲに晒すぞ。」
「二人ともやめんさい。」
「トカゲは黙ってて。」
「杏が黙れば終わるのよ。」
杏は左手を振り上げた。
『ベチッ』
咄嗟に目をつむったわたしは、音の違和感にゆっくりと瞼を開けた。わたしの前にはトカゲさんの背中があった。
「気は、済んだか。」
杏は金縛りに遭ったように動けなくなったまま、自分の左手を見つめていた。
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