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プロローグ
「今日は誰か来た?」
相談室に戻ってきた生徒会長に聞かれた少年は、ソフトテニスボールくらいの大きさの白いそれを2、3噛んでから飲み込んだ。
「今日は教室が寒いって言ってきた2年生がいたな。膝掛けの持ち込みは禁じられてないと言ったら帰ったがな」
少年はまたボールを口に運ぶ。
「それは君の誠意が足りないから帰ったのではなくて?」
「……、……それは否定できないな。詳しく聞きたいなら3組の吉田って女子に直接聞いてくれ」
少年は更にボールを追加する。見たところ、柔らかくもちもちした食感だと思うが、しかして音もなく少年はボールを消していく。
「ところで……それは何なの? さっきから一口でよく食べられるわね」
白いそれを指差して好奇の眼差しをする生徒会長。尤も、ボールを鯉のように吸い込む少年の食べっぷりの方が気になっているのだろう。
「ああ、お前も食うか? 栗原がさっき持ってきたんだが、大福の中身がチョコクリームになってる。美味いぞ」
「栗原さんが……。そう。なら私は要らないわ」
「要らないか。美味いのに」
生徒会長は白いそれを飲み物のように消費する少年を横目に見つつ鞄の中を探った。四角く包装されたそれを手に取ると、少年の前まで歩を進めた。その顔は、少し不機嫌だった。
「じゃあ、私からはこれ」
少年は手渡されたプレゼントを見てもピンと来なかった。困惑すると眉間に皺が寄る癖がまた出てるのを見て、追撃する。
「鈍いわね。今日は あ な た の 命 日 よ」
プレゼントを見たまま固まった。少年は聞き間違えたと思った。ゆっくりと、耳に入ったことを繰り返した次の瞬間、プレゼントから光が見えた。
その一瞬で少年の視界は、荒れた空模様のスキー場のような真っ白の景色に変わった。おまけに何も聞こえなかった。
だが確かに感じた。
首元を何かが掠めた。
胸元を何か液体が這いずった。
スン、と感じた生臭い香り。
いくら鈍いと言っても、ここまでされたら少年といえども想起せずにはいられなかった。
嘘だろ、と少年が言う前に視界は闇に葬られた。
わけがわからなかった。
ガタン、と椅子から崩れ落ちた。
暖房がついた室内も、床の近くはとても冷たいのだと、少年はこの時初めて知った。
酷く冷たい床の上で、べたつく体を起こそうと腕に力を込めたところで、ずるりと崩れるだけだった。
「全く、鈍すぎるのよ」
生徒会長は鮮血の池を床に作る少年を見下ろして苛立った。ふざけるのも大概にしなさい。と、のたうつ少年に冷たい目で吐き捨てるように言う。
汚れた手を拭きながら、少年の顔に生気がないことを確かめると更に呟いた。不愉快なものね、と。
完全に動かなくなった少年に、答えられるとは思っていないものの、一応聞くことにした。
「あなた、誰よ」
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