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「漫談するな……んふっ、ら洗い物を済ませてからにしてくれないかね? 宇宙人……くふふふっ……」
え? ハズレ? バカな。
「いやいやいや、人が大勢成り代わってるんでしょ? 大いなる力が作用してるはずだろ? てことは宇宙人的な超常の存在が関与してるはずだろ?」
「なるほど、君はそう考えたわけか。宇宙人か……ロマンあるなぁ……」
「濁さないでください。先生、オレは本当の自分を……」
先生は少年の肩を掴んでグッと力を込めた。
「肩の力を抜け、少年。焦るな」
「先生……」
「まずは聞いてやろう。その宇宙人が何をどうした?」
「オレを転送装置のようなものを使って攫い、オレのコピーを作って入れ替えた……という仮説です」
「ふむ……なるほど。そうきたか。それはある意味正解かも知れんな。でだ、本物の君を取り戻すにはどうすればいい?」
「宇宙人の標本室に入ってオレを見つける」
先生は感心しているのか、黙って少年をじっと見ている。
「それで、標本室とやらはどこにあると考えてる?」
「それは分かりません。ただ……転送装置がありそうな場所は目星がついてます」
それはどこだ? と先生が問うと、低い声で囁くように茗渓大学と答える。
ほう、と先生は感嘆した。だが同時に、虚しくも一言、それはハズレだ。と。先生は、ただ一言そう言った。
「少年、君は何かを勘違いしているな?」
「勘違い?」
「いいか? 君とオリジナルの違いは何だ?」
「思考や記憶の一部、ですかね」
「すると変えられたのはどこだ?」
「……脳?」
「イエス」
言葉遊びをしている場合ではない。
「だからそう……外側は同じと見るべきじゃないか? 奪われて変えられたのは中身だけ。とすれば、恐らくオリジナルの少年本体は……」
「既に存在していないと……? そういうことですか!?」
「そうだ」
筑前煮から焦げた醤油の匂いが立ち上ってきた。少年は慌てて火を止めて蓋を開ける。
中身は無事で安心した。
「自分の正体より筑前煮の将来を優先するとは、君の行動パターンは中々どうして奇妙なんだろうね」
チラリと見せた舌。次に口が動いた時、思考実験だ、と発した。
「姿形が全く同じ。だけど脳だけが違う。これは別人か? まあ別人と言ってもいいだろう。
では、姿形が全く同じ。脳も同じ。……ただ、脳の一部を封じられている。これは別人か? もし別人だと言うなら、封じられた脳が解放されたら同一人か?」
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