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車椅子は暗い中平然と少女を乗せて地下空間を旅していく。地下は起伏も凹凸もなく車輪で動くには最適なのだろう。
「ああそうだ」
お人形さんが低い声で語りかける。
「これは過去への片道切符だ。覚悟をしておくといい」
少年は、ああ。とだけ返事をする。自分の声が少し遅れて聞こえてきた。
少女は地下室の扉を開ける。キィ、と蝶番が鳴いて部屋の中を顕にした。中はこれまでの景色と打って変わって、モニターやらケーブルやら酸素カプセルみたいな装置やら混沌とする部屋だった。
モニターからチラチラと光が映る。青地に白文字で何やらプログラムが動いているようだ。
「ブルースクリーン……」
「それは違う」
少女はさっきよりも低い声で強く否定した。
「汝が飛びたい過去は5日前だな。準備してやろう。そのカプセルに入って待つが良い」
キーボードと会話するようにカタカタトンとワルツを踊る少女は、可憐にして優美だった。格好はアレのままでも可愛らしさを置いてけぼりにして、凛とした佇まいをみせる。
「では始めるぞ。スペックが十分なら5日前に飛ぶ」
「ああ。頼むぜ」
モニターが緑に変わり装置が唸りはじめた。
暫くして装置が低音を止めた。
「では始めるぞ。スペックが十分なら5日前に飛ぶ」
「お、おう」
モニターが緑に変わり装置が唸りはじめた。
暫くして装置が低音を止めた。
「では始めるぞ。スペックが十分なら5日前に飛ぶ」
「ん?」
モニターが緑に変わり装置が唸りはじめた。
暫くして装置が低音を止めた。
「では始めるぞ。スペックが十分なら5日前に飛ぶ」
少年はスマートフォンを取り出して時間を確認する。20:51:46だった。
モニターが緑に変わり装置が唸りはじめた。
暫くして装置が低音を止めた。
「では始めるぞ。スペックが十分なら5日前に飛ぶ」
少年はスマートフォンを取り出して時間を確認する。20:51:46だった。
「待て待て待て待て!!」
「怖じ気付いたか……?」
少女は手を止めて少年を訝しんだ。じっとりと睨まれると、一度唾を飲み込んでからでないと喋れなかった。
「……30秒程しか過去に戻れないみたいだ」
ほう、と感心したように少女は唸った。
「30秒も戻れたのか。大したスペックだ。我が力を持ってしても10秒ほどしか戻ることはできなかったというのに。……汝は我が主に相応しいのやもしれぬ」
我が主だ?
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