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「君の理論をもう一度整理したい。君……のオリジナルが宇宙人により拉致されて、コピーされて、入れ替えられた。大まかに、これでいいのか?」
「はい、その理解でいいです」
「では、私の考えをここで提示しておこう」
棒人間や矢印を使って書き出していく。流石にここは教師の本分だろう。紙に描かれた図で大体理解できた。
「君たちコピー人間は、未来人による仕業だと考えている」
中らずとも遠からずということだったのか。少年は目を輝かせて傾聴する。
「未来、何か大きな厄災が起きた。未来人としてはこれを阻止したい。何かは分からないが、人間の頭数を増やしたかったと見える。しかし、余りにも大きな歴史の改変は何をもたらすか分からない。そこで、コピー人間と入れ替えることで歴史の歪みを少なくすると共に未来での人口を増やすことで脅威に対抗している。と、考えた」
「未来でコピー人間を量産するだけで良いのでは?」
「コピーに制約がある可能性、過去を僅かに変えることで厄災を阻止できる可能性の2つが考えられるな。単に量産するだけでは意味がないのかも知れない」
そこは想像の範囲内でしかなかった。だが、この状況を説明するためには納得できる点がある。コピー人間が既存人類に対して攻撃性を持っていない点だ。宇宙人による侵略なら、この点は無視できないはずだ。
「君の考えとそんなに変わらない。この世で人がコピーと入れ替わっている。その事実だけは確かだ。それをしてるのが宇宙人か未来人か。それだけだよ」
先生は手を組んで優しい顔つきをしている。
「君が見つけた時間遡行装置は未来人の手によるものかも知れん。何よりも……私の説が正しければ、君のオリジナルは無事だ。未来人と接触して、オリジナルと会って確かめるんだ」
少年は押し黙った。言うべきか悩み、絞るように、そう、ですね。とだけしか出てこなかった。
「とにかくだ、君はしばらくここにいて良い。どうせ家に帰ったら生徒会長に命を狙われるのがオチだ」
空のショットグラスを指でコチンと弾いて倒した。四分の一周してショットグラスは振り子のように振れてやがて止まった。
「そういえばそれなんですけど」
少年はひと呼吸置いて先生の目をまっすぐに見た。
「……なんでオレは命を狙われてるんですかね」
「偽物だからだろう。それ以上でもそれ以下でもなく、今の君が偽物であるから……だな」
先生は本当は知っている。ただ、その答えは少年に見つけてほしいと願っていた。というか本気で鈍いなコイツとさえ思っている。
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