人類の敵

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人類の敵

 ゆっくりと瞼が開く。目が慣れても暗闇のままの空間は、ゆっくり時間が流れている。  恐る恐る首元を触るとザラザラとした肌触り。布が巻かれているらしい。続いて胸元に手を這わせるといつもの肌感覚だった。  出血がひどかったからか、手も足も数cm動かすのがやっとだった。だが考えることはできた。 『あなた、誰よ』 『全く、鈍すぎるのよ』  そう言われてもな……あなた誰よって、オレはオレだろうが。鈍すぎるってなんだよ。大体、なんでオレはいきなり切られた? 切られたんだよな? しかも前座はフラッシュバンみたいな視覚と聴覚を奪う何かが使われた。オレを殺すことを初めから想定していたってことだよな? ありえねえだろ。あいつがオレを―――― 「目が覚めたか? 少年」  聞き慣れた声の方向を向く。相変わらず真っ暗のままだが、声の主ははっきり分かった。保健室の須田先生だ。 「先生、何がどうなってるんです? ここはどこで……電気くらい点けてもいいじゃないですか。こんな暗い中で」 「そう……か……。このまま話すぞ。アタシが通りかかった時、丁度生徒会長が部屋から出て行ったんだが……どうもきな臭くてな。中を覗いたら血塗れの君がいた。保健室の先生としては流石に看過できなくてな。応急処置をして看護した。それで今に至る」 「救急車とか警察とか考え付かなかったんですかね?」 「なるほど……どうやら生徒会長の言うとおり、アタシが知っている少年じゃないみたいだな」  掛け時計の長針が時を刻む音が少年の耳に確かに届いた。 「先生までそう言うとは思いもしませんでしたよ。じゃあ今ここにいるこのオレは一体何者なんですか!」  少年の憤りは頂点に達しそうだった。そんな少年の落ち着きを取り戻そうと先生は少年の肩に手を置いた。落ち着きたまえ、ちゃんと話す。そう諭した。 「ざっくり言えば、今の君は人類の敵だ」 「…………おう?」 「今の君は人類の敵だ」 「いや聞こえてますから。そこじゃないでしょう」 「ならいいじゃないか。今の君は人類の敵だ」 「大事なことだからって3回言わなくてもいいんですよ? …………人類の敵とは?」 「今の君はオリジナルの君と入れ替わり……いや、成り代わってるのか。兎も角、姿形、声や性格……大部分がキレイにコピーされた偽物だ」  記憶も意識も、成り代わった自覚すらない少年には、全く理解できなかった。
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